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ヒアルロン酸Naとは?その効果と製品への応用例を解説

ヒアルロン酸Naとは?その効果と製品への応用例を解説

最近、ヒアルロン酸Naを含む製品を目にすることが増えてきました。特に美容や健康の分野においてよく耳にすると思います。
しかし、ヒアルロン酸Naがどのような物質で、どのような機能があるかまでご存知の方は少ないのではないでしょうか。
ここではヒアルロン酸Naの化学的な特徴や生体内での役割、製品への応用例を説明していきます。

ヒアルロン酸、ヒアルロン酸Naとは

ヒアルロン酸はグリコサミノグリカンの一種で、D-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンという2種類の糖が交互に繋がった長い鎖のような物質です。
ヒアルロン酸の一部(D-グルクロン酸の6位炭素のカルボキシル基)がCOOHからCOONaに変わったもの(ヒアルロン酸のナトリウム塩)がヒアルロン酸Naです。それ以外はヒアルロン酸と同じ構造をしています。
ヒアルロン酸はもともと私たちの体にも存在しており、細胞外マトリックス(細胞外の領域を満たす物質)の一部として、細胞を外部環境から保護しています。水分の保持に優れているため、組織の乾燥を防ぐとともに弾力や粘り気(粘弾性)を与え、組織の形状を支持するはたらきもあります。
特に皮膚の真皮層や軟骨、眼球内を満たす硝子体、関節内の空間を満たす関節液などに多く含まれており、クッションや潤滑剤のような役割を果たしています。
同じく細胞外マトリックスを構成するものに、コラーゲンやエラスチンがありますが、これらは組織に強度を与え、頑強にする骨組みのような役割があります。またヒアルロン酸が糖であるのに対し、これらはタンパク質でできているという違いもあります。
このように異なる性質を持つ線維が組み合わさることで、丈夫でありながら柔軟性も持ち合わせる細胞外マトリックスが形成され、外から加わる衝撃などから私たちの体を守ってくれているのです。

ヒアルロン酸Naの効果

ヒアルロン酸Naはヒアルロン酸とほぼ構造が変わらないため、生体内ではヒアルロン酸と同じく、皮膚や関節の保水性、粘弾性を上げる効果が期待できます。しかし、どのようにして体内に取り入れるかによって、効果の現れ方が異なってきます。

食べる場合

ヒアルロン酸Naを含む製品の中には「飲むヒアルロン酸」や「食べるヒアルロン酸」など、口から摂取するものが多くあります。これらは美容や健康などを目的としたサプリメントなどに多く見られます。
通常、口から摂取したものは、胃腸で細かく分解されてから吸収されます。ヒアルロン酸も糖がたくさん連なった大きい分子ですので、口から入ると胃腸で細かく分解されてしまいます。
ヒアルロン酸の場合は胃液や消化酵素ではなく、腸内細菌によってオリゴ糖(糖が数個つながったもの)にまで分解されることが分かっています。
そのため、ヒアルロン酸をそのままの状態で利用することはできませんが、1ヶ月~3ヶ月ほどの長期にかけて継続的に摂取することで、効果が現れることが確認されています。
オリゴ糖の状態で腸から吸収されたヒアルロン酸は、血液やリンパの流れを介して皮膚や関節を含む全身に回り、効果を発揮すると考えられています。

肌の上から塗る場合

皮膚は表面の表皮層とその下の真皮層に分かれており、ヒアルロン酸は真皮層の細胞外マトリックスと表皮層に存在しています。
表皮層の一番表面にある角層では、角質細胞が何重にも重なって層をなしており、さらに角質細胞の間は脂質(細胞間脂質)で満たされています。加えて皮脂の分泌もあるため、表皮には油分が多いのです。
また正常な表皮の顆粒層(角層の下の層)にある細胞は、互いに強く結合(タイトジャンクションを形成)しており、皮膚を介した物質の出入りを防ぐバリア機能があります。
角層の油分や層構造、顆粒層のバリア機能によって、体内の水分が外に漏れたり、外からウイルスなどの異物が体内に侵入したりするのを防いでいます。特に皮脂や表皮層となじみにくい水溶性物質や、顆粒層のバリアに阻まれるほどの大きな物質は、皮膚を通過しにくい傾向があります。
先に述べたとおり、ヒアルロン酸Naは水の保持に優れているため、水との相性が良い水溶性物質です。さらに糖がたくさん連なった大きい分子ですので、ヒアルロン酸Naをそのまま塗り込んでも肌に浸透させることはできません。そのため肌の上から塗る化粧品などでは、ヒアルロン酸Naをリポソームで包むなどして脂質との親和性を高め、表皮層に入りやすいように加工されています。
それでも顆粒層のバリアは通過できないため、肌に塗布されたヒアルロン酸Naは真皮層の細胞外マトリックスに補給されるのではなく、表皮の角層を保湿することで肌の乾燥を防ぐ効果があります。また表皮の水分量が増えることで、紫外線の真皮層へのダメージが緩和されます。

注射の場合

注射によって、補給したい部位にヒアルロン酸Naを直接注入する方法です。
食べるものや肌に塗るものとは違って個人で気軽にできるものではありませんが、ヒアルロン酸をそのままの状態で体内に届けることができ、即効性がある(長期に及ぶ場合もあります)という利点があります。
一方で、注射による内出血や痛み、腫れ、細菌感染を引き起こすリスクもあります。特に美容整形や整形外科治療で行われています。

ヒアルロン酸Naの用途

ヒアルロン酸Naは美容や健康、医療の分野で多用され、ニワトリのトサカから抽出したものや、細菌などの微生物が作るものが原料となっています。

美容、健康食品

食品ですので、食べてヒアルロン酸Naを摂取するものになります。
先述の通り、口から取り入れると胃腸で分解されてしまいますが、長期的に摂取することで効果が現れてきます。皮膚や関節軟骨中のヒアルロン酸を増やし、肌トラブル(シワ、たるみ、乾燥)の緩和、高齢者の関節強化などの目的で利用されます。

化粧品

化粧水やクリームなど、主に肌に塗って使うものです。
ヒアルロン酸Naによって皮膚表面(角層)を保湿し、小ジワや紫外線のダメージを抑える効果があります。特に紫外線は、真皮層の細胞外マトリックスを構成するヒアルロン酸やコラーゲンなどの減少・変性を引き起こし、これがシワやたるみの原因となるので、紫外線ダメージの緩和は肌の老化(光老化)抑制につながります。

医薬品、整形外科治療

主に点眼液や関節注入液に使われています。
点眼液における役割としては、ヒアルロン酸Naの保水性を利用して目の乾燥を防ぐ他、フィブロネクチンと相互作用して角膜の創傷治癒を促進する効果もあります。また関節リウマチや変形性膝関節症など、関節液や関節軟骨中のヒアルロン酸減少を伴う疾患では、関節内にヒアルロン酸Naを注入して補う治療法が行われることがあります。

美容整形

ヒアルロン酸Naの粘弾性を利用して、皮膚のハリを出す、顔の輪郭やパーツの形を整形するといった目的で使われます。
具体的な例としては、鼻を高くする、顔のシワやたるみを消す、頬や唇にふくらみを出す、などが挙げられます。主に皮下注射によって施術するため、傷やダウンタイムが少なく、素材としても体に優しいという利点がありますが、時間が経つと分解・吸収され、シリコンのように半永久的には残らないという欠点もあります。ただし、ヒアルロン酸を製造するメーカーによって分解速度は異なります。

【まとめ】ヒアルロン酸Naとは?その効果と製品への応用例を解説

ヒアルロン酸Naは生体への負荷が少なく、優れた保水性と粘弾性を有することから、美容・健康食品や化粧品、医薬品、美容整形などに利用されています。
どのようにしてヒアルロン酸Naを取り入れるかで効果の現れ方が違ってきますので、用法ごとの吸収のされ方や効能の特徴は知っておくと良いでしょう。

用語説明

  1. ①グリコサミノグリカン(ムコ多糖類)
    細胞外マトリックスに含まれるヘテロ多糖(異なる種類の糖が繋がっている鎖)の総称で、水を含むとゲル状になるものが多いです。ヒアルロン酸の他にも、コンドロイチン硫酸やヘパリンなどがあります。
  2. ②角質細胞
    角層を構成する細胞で、通常の細胞にある分裂機能や細胞内小器官(細胞の生命活動を行う装置)を全て失っています。細胞内には天然保湿因子(NMF)を含んでおり、角層の保湿に関わっています。
  3. ③細胞間脂質
    角質細胞の間を満たす脂質で、主にセラミドなどの両親媒性脂質(水にも親和性のある脂質)の膜と、水の層が交互に重なったミルフィーユのような構造(ラメラ構造)をとっています。この層構造も皮膚のバリア機能や保湿機能を担っています。
  4. ④リポソーム
    リン脂質のような両親媒性脂質の膜でできたカプセル。水溶性物質を両親媒性脂質で包むことで、脂質になじみやすくなります。化粧品だけでなく、医薬品の有効成分などを細胞内へ輸送する手段として使われることもあります。
  5. ⑤フィブロネクチン
    細胞を足場(細胞外マトリックス)に接着させるタンパク質。角膜は表面の上皮層、中間の実質層、一番下の内皮層に分かれており、上皮層は角膜上皮細胞、実質層は細胞外マトリックスで構成されています。上皮層が傷つくと、傷部分のマトリックス上にフィブロネクチンが現れ、傷を角膜上皮細胞で埋めて修復しようとします。ヒアルロン酸はフィブロネクチンに結合し、細胞と細胞外マトリックスの接着を強めると考えられています。

参考文献)

編著 畑山巧「ベーシック生化学」化学同人

木村守「経口摂取ヒアルロン酸の吸収」ファンクショナルフード学会誌,第14巻,p30-35(2018)

高見澤菜穂子 他「鶏冠由来ヒアルロン酸含有食品の膝関節の自覚症状に対する長期摂取時の有効性および安全性の評価―プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験―」薬理と治療,第44巻2号,p207-217(2016)

徳留嘉寛「ヒアルロン酸などの水溶性高分子は塗布するだけで皮膚深部に送達できるか?」オレオサイエンス,第20巻3号,p135-139(2020)

岡野由利「スキンケア化粧品のコンセプトの変化―角層を保湿することの重要性―」日本化粧品技術者会誌,第50巻2号,p91-97(2016)

中村雅胤、西田輝夫「上皮創傷治癒におけるヒアルロン酸とフィブロネクチン-インテグリン系の相互作用について」CONNECTIVE TISSUE(日本結合組織学会),第26巻3号,p227-235(1994)

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